地球は冬で寒くて暗い。

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たぶん成仏してほしいヘイトとか単なる思考の整理とか

【ネタバレ注意】映画「天才作家の妻 -40年目の真実-」の感想

「さざなみ」「ゴーン・ガール」に続き、幸せに満ち溢れているように見える家庭がじわじわ崩壊していく(ないしは蓋を開けると崩壊している)姿をまじまじと見せられる映画として挙がりがちなこの映画。ヒューマンドラマやサスペンス好きなので先日やっと見てみました。

まあまずはあらすじ。

ノーベル賞授賞式を背景に、人生の晩年に差しかかった夫婦の危機を見つめる心理サスペンス。世界的な作家ジョゼフと彼の創作を慎ましく支えてきた妻ジョーン。理想的なおしどり夫婦に見えるふたりの関係は、夫のノーベル文学賞受賞によって静かに壊れ始める。

天才作家の妻 -40年目の真実- [DVD]

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 とまあ、上述で言う後者側の蓋を開けていくパターンの映画です。

対照的だからこそ共同執筆し、円満な夫婦関係を続けていた

ジョセフ(夫):物語の着想力を持つが、それを執筆していく能力がなく、三流作家止まり。その上、自己評価は過剰で、自己評価に見合った評価を得ようと常に必死でいる。ただし、それに反する形で自身の人生に対し不安を病的なまでに持ち、不倫により何とか平常心を保っている。ついでに言うと、甘党で豚のように食い散らかしては口周り・床を汚し回ったり、服を脱ぎ捨てて回る厄介者。

ジョーン(妻):男尊女卑思想が強く、才能はあるが文壇に登り詰めることを諦めた女性。ジョセフの着想を基に、実際の物語の執筆を可能とする才能を持ち合わせ、実際に多大な時間を費やしてきた。夫の浮気癖を何度も許し、それを作品に昇華していく等、作家としての熱情や根性は並々ならぬもの。自尊心を高く持ち、常に冷静沈着だが、感情面では40年間傷付き続けてきていた。

彼らは文学を書き続けるということ自体においては運命の相手同士だったと言える。生活の不満はありながらも、山を越え谷を越え、その不平不満を共に作品に昇華させてきた。

ただし、共同執筆とは言葉だけのもので、無神経な夫は「妻は書けない」との烙印を世間共々押し、妻も自らの職業を「Mrs. キャッスルマン」「キングメーカー」と賢く皮肉る。

運命的な出会いの思い出をそっくりそのまま使われる苦痛

ノーベル賞授賞式のため、ストックホルムに行った先での若い女性カメラマン(自身の自尊心を刺激しない相手)に、ジョセフはかつてジョーンに吐いた台詞と、おそらく渡したであろう胡桃を渡す。そしてジョーンは前者を見届け、後者を事後発見し、これまで奮い立たせてきた自尊心が砕け散りかかる。また、授賞式で夫が表彰されるのを見届けさせられることで、彼女自身の才能を活かせなかった後悔・時代への恨みは頂点に達し、自尊心は崩壊させられる。それでも、自分が書いたのだと言いたそうで言いたくなさそうな、ジョセフへの愛情と文学創作への熱意との間で揺れ動く演技は素晴らしい。

ノーベル賞受賞と共に行われる夫婦関係の総決算

授賞式が終わり、ジョセフに離婚を持ち出すジョーン。その言葉に平常心を保てなくなると、何かと嘘を吐いたり、ジョーンに責任転嫁したり、謎のそもそも論を持ち出し優位に立とうとする。確実に病院に行った方がいい。

そんなやり取りをしている間に、ジョセフが心臓発作を起こすのだが、そんなジョセフをジョーンは見捨てず、最後まで手を握り続ける。そんなジョーンに反するかのように、自分への愛の囁きを乞い、「何が真実かわからない」と自己中心的で無神経な性格を最後まで見せつけるジョセフ。

こうして二人の共依存関係には終止符が打たれる。

息子の言い放った「奴隷」は存在したのか?

上述通り、ジョセフとジョーンは共依存関係を続けてきた。ジョセフは一方的に名声を手にしているように見えて、それらと同程度の、自分のキャパシティを超えた「自分には文学的才能がないのではないか」という強迫観念や、それに伴う将来への不安と長期間戦い、自尊心を刺激しない相手との不倫で何とか紛らわさないとやってはいけない男だった。ジョーンもまた、ジョセフとの別れが惜しいが余り、彼の着想を基にゴーストライターとして執筆し続け、才能を活かせなかった後悔を胸に秘め続けてきた。

そんな二人の共依存関係が幕を下ろし、彼女が本から顔を上げる仕草で映画は終わる。彼女は自立し、この二人の結末をもネタに、執筆していくのではと思わせるラストであった。