地球は冬で寒くて暗い。

地球は冬で寒くて暗い。

たぶん成仏してほしいヘイトとか単なる思考の整理とか

【ネタバレ注意】映画「マネーボール」の感想

野球映画でありながら、主演のブラッド・ピットGMを演じる映画「マネーボール」を先日やっと見てみたので、忘れない内にざっと記録や考察を述べておきます。

まあまずは簡単にあらすじを。

メジャー経験のあるプロ野球選手から球団のフロントに転身するという珍しいキャリアを持つビリー・ビーンブラッド・ピット)。風変わりで短気なその性格は、若くしてアスレチックスのゼネラルマネージャーになってからも変わらなかった。自分のチームの試合も観なければ、腹が立つと人や物に当り散らすという、癖のあるマネジメントを強行。そんな変わりダネが経営するアスレチックスは弱かった。しかも、貧乏球団のため、優秀で年俸の高い選手は雇えない。チームの低迷は永遠かと思われ、ワールド・チャンピオンの夢はほど遠かった。だが、野球経験はないものの、データ分析が得意なピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)という球界の異分子と出会ったことで、風向きが変わり始める。ビリーは後に“マネーボール理論”と呼ばれる“低予算でいかに強いチームを作り上げるか”という独自の理論を実践。だがそれは同時に、野球界の伝統を重んじる古株のスカウトマンだけでなく、選手やアート・ハウ監督(フィリップ・シーモア・ホフマン)らの反発を生み、チーム状況が悪化。それでも強引に独自のマネジメントを進めてゆく。その揺るぎない信念は、徐々にチームに勝利をもたらし、誰も想像しなかった奇跡が…。

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  マネーボール理論を簡単に説明しておくと、「評価は低いものの、出塁率の高い選手を起用することで、低予算という制約の中でいかに勝利するチームを作り上げるか」という、画期的なセイバーメトリクス(野球理論)を指します。

スポーツに統計理論を用いて勝利にこだわるビリーとピーター

ビリーとピーターの性格は殆ど真逆と言っても過言ではありません。ただし、二人の共通点はあります。

ビリー(GM):かつて自身も超高校級選手としてニューヨーク・メッツからドラフト1巡目指名を受けたスター候補生だった人物、かつ、名門スタンフォード大学の奨学生の権利も持っていた、文武両道の秀才でした。しかし、基本的に飄々かつマイペースで、自分のチームの野球は見ない、負けたら物に当たる、マネジメントにも務めない。それでも勝利を手にしたいと願っている最中、自身が実際はプレーヤーとしては成功出来なかった経験から、データ分析が得意なピーターに目を付けます。貧乏球団ながらに、育てては別球団に買われていく中、野球理論を用いて、欠如した団員を補完していく計画を思い付き、ピーターにその統計学での分析役をしてもらい、なんとしてでも勝利を勝ち取ろうとする。

ピーター(統計学を操る相方):名門イェール大学経済学部を卒業した秀才。弱小チームながらに勝利を勝ち取ろうとするビリーに目を付けられ、その日に彼に買われ、セイバーメトリクスという野球理論を用いながら、安いながらに勝利を導くと考えられる選手候補を洗い出し、選手買いを手伝う。ビリーとは性格は真反対かのように大人しく、部屋に籠ってデータ分析に取り組む。ただし、ビリー同様、どういった育成やマネジメントをするかではなく、どのようにして勝つか、手にすべきものは「勝利」だと考える。

上述したように、彼ら二人は野球団員の「高額買取」や「育成」、「マネジメント」ではなく、‟貧乏球団という制約条件の中で、いかに勝利を手にするか”ということだけに興味があり、そこに情熱を注ぐという共通項を持っている。

作品全体として派手さはないが、映画中盤の、二人が協力して目的の選手をトレードしてゲットするスピード感満載のやり取りは見どころ。

金持ち球団に対抗する貧乏球団の、統計学を用いた記録的勝利

セイバーメトリクスを採用しても、最初はなかなか効果が出ず、選手や監督達からは見放されかけていたが、ビリーとピーターは野球理論を信じ続け、ある一定の対戦をこなした後に訪れる「勝利の幕開け」を願い続ける。そして、ビリーとピーターの願い通り、セイバーメトリクスは効果を発揮し、前代未聞の20連勝を記録する。「それは記録に残ることだ」と連勝を祝うピーター。対して、「次で負ければ忘れ去られる」とワールドマッチでの勝利を望む。

同じ「勝利」へのこだわりがあっても、「記録」に思い入れを残すピーターと、「継続的な栄光」を望むビリーの態度が対照的に表現される。

レッドソックスからのDMオファーをなぜ断ったのか

ビリーはワールドマッチでは勝利を勝ち取れなかったものの、その栄誉を称して、レッドソックスからGMのオファー(かつ前代未聞のオファー金額)を手にします。だがそれを最終的には蹴ってしまう。そこだけが視聴者に謎を残す終わり方になっているので、少し解説しようと思います。

ビリーの娘がギターを好んで弾くこと、また、父親のビリーがカリフォルニアで一人記録を目指し続けていることを誇りに思っていること、また、自身も貧乏球団に思い入れがあり、どうにかしてここで記録を作りたいと考えていること、また、使った統計学セイバーメトリクスという「評価は低いものの、出塁率の高い選手を起用することで、低予算という制約の中でいかに勝利するチームを作り上げるか」を重宝していたことから、「制約条件のある中で、何らかの手法を用いて奇跡を生み出すこと」に固執し、そしてそれを楽しんでいたことがわかります。そのことから、お金があり、スター選手を好きに買うことが出来るような自由な世界よりも、制約条件の中で、今もまだ最高記録に挑戦し続けているのではないでしょうか。

おまけ:一瞬移るイチローの映像の意味

日本人メジャーリーガーであるイチローが、物語中盤で一瞬モニター画面に映ります。これは、「メジャー1年目から素晴らしい結果を出して、高い評価を得ているスター選手。年俸も高くて、貧乏球団のビリーでは手の届かない選手の象徴」であると監督のベネット・ミラーは語っています。つまり、スター選手とビリー達貧乏球団の差異を明確にすることで、その中で戦わなければならないことを意味しているのだと思われます。